【ショートショート】 : 「 壁 」 [ショートショート:啓発]

~遠くで寺の鐘の音が聴こえている。~

  【 壁 】

壁 2:27;1.jpg
         ・・・人には瞼が二つあると云う重い瞼を開く
真っ白い靄に包まれている...
二つ目の瞼を押し開き 足を踏み出す

二歩 三歩 と 進む      壁がある。
五歩 六歩 と 下がる     壁がある。
朦朧とする脳 右によろめく 意思と裏腹に差し出す右手
七歩 八歩 と タタタ      壁がある。
        ・・・楳図かずお・・・神の左手悪魔の右手ってあったな
左を見る 真っ白い靄の向こうに感じる。
どうせあるんだろ        壁。
天を仰ぐ 見えないが 届きもしない

腹が空いたな こんなときでも 
手をあてる と 大きなポケット まさか 四次元ポケット
        ・・・なんでも出せる なんでも可能という
釘を取り出す 握りしめて  傷一つつかない
金槌を取り出す 跳ねされかえて指を打つ
ハンマーをツルハシを電動のこぎりを砕石ドリルを
音を失ったかのように 沈黙する
ラジウム塊を投げつける。 鉛が含有してるのか
誰にも気付かれない。
異次元にあるかのように   壁。
ドコでもドアが! 開く!    壁。
疲れ果て 腕も上がらない 前のめりに 倒れこむ
停止し塊のような脳 眼前に迫り来るゆく床。

『 壁か~~    なんだっけ壁って 』

たたきつけられようとする脳   その間際  落ちてゆく体

空気の抵抗を受け ふわりと降り立つ
土の柔らかさ   くるぶしまで埋まる

見渡す限り何もない   風が吹いている。 
見上げると空がある   雲が流れている。
4次元ポケットはない  臍(へそ)が揺れている。

はたして存在してたのか     壁。
あの左手に そして床にも    壁。
いまとなっては どうでもいい  壁。

とりあえず  歩き出す あの鐘の下へ
今度は 自分で つくために。

           ・終・


タグ:風雲
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